日本高等教育評価機構だより(日本私立大学協会発行『教育学術新聞』連載)

平成28(2016)年10月26日分掲載

研修員寄稿
―大学教職員が評価機関で働くということ

 日本高等教育評価機構では、「研修員制度」を設けている。これは、当機構の会員校等の教職員が当機構に勤務し、専任職員とともに評価業務の実務や評価関連行事の運営等を経験することにより、各大学における内部質保証システムの充実・強化、評価業務に関わる人材の養成、大学等の運営に関わる人材の資質・能力の向上に資することを目的としている。
 また、平成29年4月1日施行の「大学設置基準等の一部を改正する省令」において研修(スタッフ・ディベロップメント)が義務化されたこと、さらに中央教育審議会大学分科会の「審議のまとめ(28.3.18)」において、評価に係る人材の育成、評価機関との人材交流の有効性が提言されており、当機構としても更にこの「研修員制度」の充実に取組みたいと考えている。
 今年度は13人の研修員が活躍中である。所属校は北は青森から南は長崎まで、年齢もこれまでのキャリアも異なる多様な人材が集まっている。
今年度が2年目となる研修員2人から、日々の研修内容やそれに対する感想などを寄稿してもらった。

評価事業部 安部雅隆(学校法人九州文化学園 長崎国際大学)
初めて知る認証評価の重要性

 私の本務校は長崎県佐世保市にある長崎国際大学で、以前は講師という立場で教壇に立っていたが、平成27年4月より評価機構に派遣され認証評価業務に携わっている。
 評価機構での主たる業務は、「当該年度に認証評価を受審する大学・短期大学の担当者として、その大学・短期大学の評価業務を円滑に遂行させること」と私自身考えているが、具体的には、大学の自己評価担当者との事務連絡、評価員の委嘱及びその後の事務連絡、事前相談、評価員会議・実地調査の運営、評価員が作成した報告書の編集等多岐にわたる。
 業務全般を通して必ずしも特別なスキルや知識が必要とはされない。しかし、認証評価は大学にとって7年以内に一度課せられる大きな責務であることに加え、その評価結果如何によってその後の将来を左右する可能性を含んでいる。したがって責任の重さを日々感じながら、緊張感と共に業務に取組んでいる。

この経験を次は本務校へ

 では、評価機構の業務を通して何を得られて、その後の何に有益なのか。私見にはなるが、評価機構での研修の意義について3点、具体的に以下に記したい。
 1点目は「人との繋がり」である。評価機構や日本私立大学協会の方々をはじめ、評価業務を共にする評価員、そして志を同じくする全国の私大から集まった研修員等、多くのことを教授してくれる人々との繋がりを構築できている。この繋がりは、将来の自分、ひいては将来の本務校にとって大きな財産となることは疑いようがない。
 2点目は「本務校の未熟な点がわかる」ことである。各大学の評価業務に携わることは、換言すれば普段だと知り得ないその大学の側面にも目が及ぶということである。私は昨年度6大学、今年度は10大学の評価業務に実地調査含め関わってきたが、各大学には、普段では見えない個性・特色がある。私にとって、それらは本務校の改善に繋がる「手掛かり」が発掘できる宝庫みたいなものである。それら宝庫に触れるたび本務校の未熟な点を意識せざるを得ないものの、その「手掛かり」を持ち帰り、自大学に合うように昇華させて、結果として改善に結びつけたいと考えている。
 3点目だが、「本務校の優れた点がわかる」ことである。2点目と真逆の視点ではあるが、何も弱みを改善することだけが大学改革とは限らない。自大学の優れた点を再認識し、その強みを伸ばすことも立派な改革である。しかし残念ながら、この強みに関してはその大学に長く所属する教職員であればあるほど目を向けなくなる傾向にある。私は多くの大学と接する中で、逆に本務校の優れた点を再認識できることにも気づかされた。本務校で勤務する教職員にもこの経験を伝えることで、今一度自分が所属する本務校の良さを共有したいと考えており、結果として勤務する教職員の意識向上の一助としたい。
 以上のように、この研修期間での経験に裏打ちされた見識は、本務校の今後の躍進に間違いなく寄与できるものと確信しており、評価機構での研修の意義は想像以上に大きかったと感じている。

評価研究部 南澤義晃(学校法人桑沢学園東京造形大学)
実務を通じて知見を広める

 平成27年4月に研修員として評価機構に派遣され早1年半が過ぎた。本務校である東京造形大学では、入試と学生募集に関する部署で管理職として多岐にわたる業務に携わっていたが、この1年半は、認証評価に関する業務に専従する環境の中で、実務を通じて教育の質保証や大学の管理運営について知見を広める日々を過ごしている。
 本稿では、昨年度に研修員として経験したことを四半期ごとに分けて振り返りながら、研修の様子の一端を紹介するとともに、この研修で得られたことを再確認したいと思う。

評価機構での1年

 4月から6月。研修員として赴任すると、まず初任者研修があり、認証評価制度とその実務、評価機構の事業内容や担う役割などについて学ぶ。本務校で認証評価と関連の薄い部署にいた研修員もここで自らが携わる業務への理解を深めることとなる。4月の2週目には自らが担当する評価対象大学が伝えられ、実務がスタートする。ちなみに、昨年度は6大学、今年度は10大学を担当している。
 6月末に大学から自己点検評価書等が提出されるまでの間には、大学からの事前相談の対応などもあるため、初めの3か月は認証評価や関係法令、高等教育政策の動向などについての知識の習得に努めることとなる。この時期は認証評価の実務以外にも評価機構内外での各種研修に参加する機会があり、ここで高等教育に関する知識の幅を広げることができた。
 7月から9月。この時期は、各大学の実地調査に向けての評価員会議が開催され、担当大学の認証評価担当者と評価チームの評価員との間で種々の調整をすることが主たる実務となる。様々な立場の人と人を繋ぐ多くの調整業務への対応能力やコミュニケーション力を含めた調整能力について、実務を通じて向上を図る機会を得ることができた。
 10月から12月。この期間は大学の実地調査が続き、実地調査が終了した大学については12月初旬にかけて、評価チームが調査報告書案をまとめる評価員会議が順次開催される。約2か月にわたり、担当する複数の大学それぞれの実地調査や会議が並行して進むため、スケジュール管理の能力が問われた。実地調査では学内視察や面談を通じて、他大学の職員の働く姿勢や事務局の様子などを垣間見ることができた。個人的にはこの点も本研修ならではの有意義な経験だったと感じている。
 1月から3月。年が明けると、大学からの「意見申立て」の期間を経て、評価結果を審議する「大学評価判定委員会」「短期大学評価判定委員会」が開催され、3月上旬の評価決定に向けての工程が進んでいく。自分の担当大学から意見申立てがあった場合には、必要に応じて、同委員会で委員を前にして評価チームの判断理由を説明することとなるが、これもまた本研修制度以外では得難い経験と言える。

研修員制度の意義

 こうして振り返ってみると、この研修員制度は機構における認証評価の実務を軸としているものの、単なる業務研修の域を超えた意義のあるものだということを改めて実感する。派遣する大学にとっても、派遣される研修員にとっても、大学教職員のスタッフディベロップメントの機会の一つとして貴重な制度と言えるのではないかと思う。