日本高等教育評価機構だより(日本私立大学協会発行『教育学術新聞』連載)

平成29(2017)年10月25日分掲載

大学をつなぐアクレディテーション
―平成26~27年度の海外調査研究から―

 日本高等教育評価機構(以下、評価機構という。)における認証評価は、平成29年度をもってその第二サイクルを終了する。今年度は、79大学が評価を受けることになっており、評価を受審した大学は、今年度分を含めて645大学になるという。
 来年度から第3サイクルの認証評価が始まるが、第1及び第2サイクルでの評価基準や評価方法に見直すべき部分はないか。評価受審のために膨大な「エビデンス集」の準備などは過重な負担になっていないか。評価機構の実施するフォローアップ体制は機能しているか、などなど評価機構で筆者の属する評価システム改善検討委員会の課題は多い。
 課題の見直しには、多くの受審大学の担当者や評価員のアンケート結果が参考となる。また諸外国における評価機関や受審大学の経験なども重要な情報である。これらを把握することが評価機構の実施する海外調査の目的である。
 例えば、スタンフォードとその近隣の学生100人ほどの小規模大学でも同じWASC(米国西部学校・大学協会)という評価(アクレディテーション)機構によって、同一の評価基準のもとで評価を受ける。視点を変えれば、アクレディテーション機構WASCは、カリフォルニアとハワイの数多くの多様な大学を評価活動によって束ねているのである。
 もとよりその地域の学校・大学協会が評価を行うのであるから、アクレディテーション機構は多様な大学を横につないできたのである。評価のもうひとつの精髄といってよいだろう。
 ここでは、平成26~27年度に海外の大学と評価機関を訪問調査した概要を記しておきたい。その詳細は、評価機構から刊行される『平成26年度~27年度認証評価に関する調査研究』を参照していただきたい。
 「機能別分化を重視する評価の実施による評価の効率化のあり方に関する研究」が海外調査の課題であった。

【オランダ】

 オランダには、NVAO(オランダ・フランダース評価機構)があり、オランダとベルギーの北半分を占めるフランダース地方の大学評価を担当している。評価は、大学の内部評価に加えて第三者による外部評価を実施し、さらにアクレディテーション機能をNVAOが果たしている。
 訪問したエラスムス大学ロッテルダムは、欧州一の貿易港をもつビジネスの街にふさわしい大学であり、地元出身の偉人の名を冠している。ライデン大学はハーグ校で調査にあたったが、帰途にライデンの本校も見学した。オランダ最古の大学であり、日本を結ぶシーボルトゆかりの大学である。
 アムステルダム大学は、国内最大規模であり、調査は運河のほとりの教員用ラウンジで行われたが、女性学長のほか、大学評価専門の民間のコンサルタントが同席した。

【イギリス】

 イギリスでは、QAA(高等教育質保証機構)を訪問したが、グロスター本部ではなく、ロンドン事務所を訪問した。2013年からHER(高等教育レビュー)が外部評価として2名以上の評価チームによって実施されており、受審サイクルの弾力化、評価期間の短縮化、提出書類の電子化などが進められていた。
 ローハンプトン大学とUCL(ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン)を訪ねた。前者は私立教員養成系大学が四校で合併した大学で、女子学生が多く、EU圏内の留学生を多く受け入れていた。規制改革が進み、国内学生やEU圏の留学生を集めることは、大学財政に直ちに反映するという。自助努力が評価に直結するシステムとなっていた。
 UCLは、オックスブリッジに次ぐ有力大学であるが、大学の評価担当者は、QAAからこの大学の職員へと転職を遂げた人で、評価には高度な専門家が必要となっていることが実感された。

【韓国】

 韓国では、KCUE―KUAI(韓国大学教育協議会・大学評価院)を訪問した。何といっても韓国の大学評価は、わが国よりはいち早く着手され、その経験を蓄積していた。
 2011年度から新しい評価システムを導入した背景などについて伺ったが、二度目の訪問の印象としては、高い進学率と進む少子化の問題が影を落とし、地方の大学なども次第にその活況を失いつつあるというが、ソウル市の大学などでは、経済界や財閥などの支援を受けて大学はますます強くなっているようだ。
 韓国の独自性の強い評価から、「大学機関別評価認証ハンドブック2013」に示されたようなオーソドックスな評価に向かいつつあるように思えた。評価の負担軽減のため、国が集めるデータを全面的に活用していたことは大いに参考となった。
 ソウル市内の中央大学、韓陽大学の両校を訪問したが、キャンパスの佇まいはますます充実しているように思えた。

【フィリピン】

 この国の高等教育はスペイン統治下の16世紀後半にカトリック系の大学を創設したことにはじまる。1898年のアメリカ・スペイン戦争の結果、フィリピンはアメリカに譲渡され、公立学校がこの国の初等・中等教育を形成するなか、高等教育では私大が約7割もの学生を受けもっていた。
 国の独立は1946年であったが、アクレディテーションの制度下に五つの評価機構が参画している。PAASCU(フィリピン学校・カレッジ・大学アクレディテ―ション協会)の大学評価を受けているデ・ラ・サール大学(De La Salle)は、評価結果においてはほとんどの専攻でレベルⅣの最も高い評価を受けていた。
 PACUCOA(フィリピン大学カレッジ協会アクレディテーション委員会)は、1932年に結成されたフィリピン学校大学協会であり、私立学校を中心に1953年からアクレディテーションによる評価活動を始めている。この両機構は、ともにレベル評価を採用している。
 我々が訪問したこの年は、修業年限の短い中等学校から大学への入学年齢を18歳へと調整していた記念すべき年であった。
羽田 積男 評価システム改善検討委員会委員長(日本大学文理学部教授)