日本高等教育評価機構だより

令和5(2023)年7月26日分掲載

欧州における高等教育の質保証への
ステークホルダー(特に学生)参画に関する
調査研究(中間報告)

日本高等教育評価機構では国際的な動向も踏まえ不断に認証評価の改善に取り組んできており、本調査研究もその一環として実施されている。

ステークホルダー(特に学生)参画とは

本調査研究の目的は、高等教育の質保証へのステークホルダー(特に学生)参画について、欧州の制度と実態を明らかにし、当機構の評価システム改善に役立てることである。質保証へのステークホルダー参画とは、近年の高等教育質保証で重視されている観点であり、大学の内部質保証活動において、教育・研究、管理運営に関わっている教職員だけでなく、大学の重要な構成員である学生、高校等の大学教育に接続する教育関係者、大学が立地する地域コミュニティ、教育・研究の成果としての人材育成に関わる産業界などのステークホルダーを実際の質保証活動に関与させ、それらの意見を実質的に取り込むことを意味している。

調査方法

本調査研究の調査方法としては、「欧州高等教育質保証ガイドライン(ESG)」によって質保証への学生参画が求められていることに着目し、ESG策定の主体となった欧州高等教育質保証協会(ENQA)、欧州学生団体連合(ESU)、英国高等教育質保証機構(QAA)などの機関および英国の4大学を対象としたオンラインでのヒアリング調査やESUの協力の下、ESU自身が運用している専門性の高い学生評価員へのオンラインシステムを利用したアンケート調査を行った。

インタビューでの質問項目

オンラインインタビューでは、ENQAに対しては、欧州高等教育圏における質保証の規準とガイドライン(ESG)において内部質保証、外部質保証に学生参画を定めた経緯、ENQA加盟評価機関の学生参画実施状況、ESGにおける学生以外のステークホルダーの参画状況、ENQAが加盟評価機関に対して行う評価(メタ評価)における学生参画状況などについて、ESUに対しては、ESGで定められている学生参画の課題、学生参画のメリット、国による学生参画に対する考え方の違い、専門性の高い学生評価員の選出および養成システムなどについて、QAAに対しては、学生参画におけるグッドプラクティス、評価プロセスにおける学生の役割、学生評価員の選出および養成システム、学生以外のステークホルダーの参画事例、QAA自身の内部質保証への学生参画などについて質問を行った。

さらに、学生参画のグッドプラクティスとしてQAAから推薦された4大学(バーミンガムシティ大学、ハイランドアイランド大学、ノッティンガム大学、セントアンドリュース大学)に対しては、共通で、学生参画の実態、参画する学生、学生参画の成果と課題、学生参画を支援する大学の仕組み、学生以外のステークホルダーの質保証への参画などについて尋ねた。

インタビューでの回答概要

前記インタビューで得られた回答の一部について簡単に紹介する。

ENQA回答概要:

国によって温度差はあるが、欧州では学生参画の歴史が長く、学生参画のない質保証はあり得ないという考えが浸透している。大学レベル、国レベル、欧州レベルで学生団体があるという学生参画できる構造が構築されていることも重要である。学生は参画できる期間が教職員等他の評価者に比べて短いため研修がより重要となっている。ENQAが加盟評価機関に対して行う評価活動に参画する学生には報酬が支払われている。参画した学生が評価機関等へ就職する流れもある。他の評価者も学生評価員へのリスペクトがあることが評価活動を円滑に進めるポイントの一つである。

ESU回答概要:

学習環境、労働市場への接続については学生の声は重要。

学生評価員への研修は、学習、キャリア、学生生活、学生支援など多岐にわたることなど、それら全てをカバーする研修は難しいため、国によって学生に対する研修の程度に差があるのも事実。学生評価員の評価活動における地位や報酬も国によって異なる。学生参画の成果が見えないことが学生参画の阻害要因の一つ。北欧は共同体意識が強くエンハンスメント、質改善に焦点が当てられているが、南欧、東欧はアカウンタビリティーのチェックが中心となっている。専門性の高い学生評価員は公募制で、応募時に、内部質保証・外部質保証の経験、質保証に関するレポート、動機などを提出させている。既に自国の学生団体で研修を受けていることが前提なのでESUとしての研修は中上級者向けとなっており、教育だけでなく、財務、人事、施設・設備、広報などの専門家が研修を担当している。

QAA回答概要:

質保証としては学習/教育に重点をあてている。それらの設計段階から学生が参画することが重要。ただし、学生参画では、学生が時間を取られること、専門性が不足することなどの課題はある。多くの大学で学生参画担当部署が設けられている。イングランドでは大学が作成する自己点検評価報告書とは別に学生団体が作成する評価報告書がある。学生団体が作成した報告書はエビデンスとして重視しており、評価プロセス内における個別の学生面談でも活用する。学生評価員は教職員の評価員と同じ仕組みで募集、研修を行っている。報酬はどちらも同じ額となっている。QAA理事会にも2名の学生理事がいる。研修ではないが導入として理事会の意義、メンバーの役割などを説明するオリエンテーションはある。理事会において他の理事と全く同じ議決権を持っている。

大学回答概要(その1、バーミンガムシティ大学):

学位プログラム(コース)の承認、再承認、定期的なレビューの全てに学生を参画させている。コース承認の小委員会には学内外の全てのステークホルダーが参画する。学生はコースの内容、成績評価方法などについて学生視点で評価する。学生は全てのレベルで他の委員と同様の権限を持つ。コース承認に関してはコース担当のチームが学生を推薦し選出される。また、大学レベル、学部レベル、学科レベルの委員会や成績評価のルールを作成する際にも学生が参画する。委員会のレベルにより額は異なるが学生に対して報酬が支払われている。こちらに参画する学生は学生団体が選出し、研修も行うほか学生の実際の活動を支援する体制も整えられている。学生の声を反映させたコース構成案作成や後に実施する学生対象のアンケートの結果およびそれに対するフィードバックなどにおいて学生参画の成果は上がっている。一方で、学生により積極性に差があったり、個人的意見のみを述べる学生がいたり、候補者が少ないといった課題がある。

大学回答概要(その2、ノッティンガム大学):

生団体から全学の質保証委員会に委員を出している。コースの変更については、学生と協議し、同意を取り付けないといけない仕組みとなっている。コースだけでなくモジュールレベルなどでも学生が参画しており、それは規程で定められている。検討する委員会等において学生は他の委員と対等の権限を有している。参画する学生は学生団体がリクルートしている。コースの設計といった大学の戦略的プロジェクトの場合、学生が合意すれば比較的容易に進められること、全国レベルの学生調査(各種外部評価で参照される)においては学生と大学の協力関係が重要であることなど学生が参画しない大学運営はあり得ないが、一方で、学生の立候補がいなかったり多すぎたりすること、リクルートに学生代表は毎年替わるため決定に一貫性がないこと、学生個人の資質に左右されることなど課題もある。

堀井祐介 評価システム改善検討委員会委員(金沢大学数理・データサイエンス・AI教育センター副センター長、教授)

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