日本高等教育評価機構だより(日本私立大学協会発行『教育学術新聞』連載)

平成29(2017)年1月25日分掲載

認証評価を支える「評価員」
―ピア・レビューを中心とした評価を目指して―

はじめに

 日本高等教育評価機構(以下、「評価機構」)は、評価を行う際の基本方針の一つとしてピア・レビュー(同僚による評価)を掲げている。この方針に従い、評価機構は多くの大学関係者を評価員として委嘱し、評価業務への協力をお願いしている。今回は、評価員の思いや評価活動の実情について、評価機構が行った各種調査のデータをもとに紹介する。

評価員とは

 評価機構では、大学・短期大学やその他の関係機関の長から推薦された大学関係者を「評価員候補者」、評価員候補者の中からその年度に実際の評価を担当する大学関係者を「評価員」としている。
 評価員候補者は、翌年度の必要評価員数を踏まえて、ほぼ毎年度募集しており、平成29年1月現在、801人が登録されている。役職の内訳は、理事長・副理事長・学長・副学長が95人(11.9%)、学長・副学長以外の教員が479人(59.8%)、理事なども含めた事務系職員が227人(28.3%)となっている(図表1参照)。

図表1 評価員候補者の役職内訳

評価員の任務の流れ

 評価員は、まず6月下旬頃に開催される「評価員セミナー」に参加し、評価機構の評価システム全体について理解してもらっている。セミナーは、評価基準や作業プロセスなどの解説に加え、担当大学の情報共有などを主な内容としている。
 評価員は、7月に、対象校から送付される「自己点検評価書」「エビデンス集(データ編)」「エビデンス集(資料編)」を受取り、ここから「実地調査」までの間の「書面調査」が始まる。まずは、自己点検評価書等を精読した上で、全ての基準項目に対して、調査・分析を行い「基準項目ごとのコメント」を作成し、評価機構へ提出する。
 次に、評価チームごとに「第1回評価員会議」を開催し、コメントのレビューを行う。当該会議では、それぞれの評価員が主に担当する基準や基準項目の決定、実地調査のスケジュールなどについても協議する。
 これ以降は、評価員が主担当となった基準項目について「書面質問及び依頼事項」をそれぞれ作成し、チームとしてまとめたものを対象校に送付する。約2週間後、対象校からの回答を受取り、その内容を踏まえて「書面調査のまとめ」の作成と実地調査時に確認すべき事項の整理を行う。
 9月下旬~11月の間、原則2泊3日の日程で対象校を訪問し、実地調査を行う。実地調査では、対象校の責任者や教職員との面談、教育環境の視察、在学生との面談などを行う。
また、実地調査期間中に合計3回の評価員会議を開催し、面談等で確認した内容を踏まえて評価結果の内容を中心に協議する。
 実地調査終了の後、5回目の評価員会議を行い、「調査報告書案」を作成する。この報告書案は、12月下旬頃に対象校に送付している。
 翌年1、2月にかけて、対象校から「調査報告書案」に対する意見申立てがあった場合は、それへの対応案を評価員が作成し、判定委員会で審議されることとなる。
 以上のように、評価員の活動は、「書面調査」「実地調査」「調査報告書案のまとめ」「意見申立ての対応」と、長期にわたり多くの評価業務を行っている。

「負担はあるが有益」との声

 評価機構では、評価システムの改善を図るため、毎年度末に評価員に対するアンケート調査を実施している。平成27年度のアンケートの集計結果では、「評価機構の定める評価基準に基づき評価ができたか」を尋ねたところ、評価員316人から回答があり、「そう思う」という回答を268人(85.0%)から得た(図表2参照)。
 「教育活動を中心に大学の総合的な状況を評価できたか」という質問に対しては、「そう思う」という回答が250人(79.1%)であった(図表3参照)。
 一方で、「自身の通常の学務において、評価員の活動が、どの程度負担だったか」、という質問に対しては、約3割が「大変負担」「負担」と回答した(図表4)。しかし、「負担ではあるが得るものは大きい」「遣り甲斐があり有益だった」「他大学の実情を学ぶことができ勉強になった」など、肯定的な意見も多数見られた。

図表2 評価機構の定める「評価基準」に基づき評価ができたか

図表3 教育活動を中心に大学の総合的な状況を評価できたか

図表4 ご自身の通常の学務を行うに当たり、評価員としての活動は、どの程度負担に感じましたか

※図表2~4「平成27年度大学機関別認証評価に関するアンケート」より
平成27年度評価員316人からの回答

 負担に感じることとしては、「対象校から提出された「自己点検評価書」の記載内容と「エビデンス集(資料編)」に一貫性や整合性が欠如していることにより、書面質問や面談での確認事項が増え、負担感が増す」と回答した評価員が多かった。評価機構では、対象校に対して、説明会等で注意を促しているが、今後はより具体的な説明や、マニュアル類の充実などにより負担感の軽減に努めたい。
 このように、評価員の負担感は否めないが、一方で、平成27年度に評価を受けた対象校68大学のアンケートをみると、「一方的な判断ではなく、大学とのコミュニケーションを重視した上での評価であったか」との質問に対して54校(79.4%)から「そう思う」との回答を得ており、受ける大学側からは比較的高い評価を得ている。

今年度164人が登録

 評価員候補者の登録期間は3年であるが、原則として更新の依頼をしている。毎年、多くの評価員候補者が登録の更新を行い、更新率が8割を超えた年もあった。現在、10年以上継続して担当している評価員も少なくない。
 平成29年度は、84大学(再評価5大学を含む。)、7短期大学の評価を予定しており、これまででもっとも多い評価校数となる。平成28年度の評価員候補者募集で、新たに114大学から164人の推薦があった。平成25年度に評価機構が実施した「評価員候補者の推薦に関する大学の意識調査」では、大学が評価員候補者を推薦する理由としては、「学内の自己点検・評価活動を推進してもらうため」をはじめとし、多くの理由が挙げられている(図表5参照)。

図表5 評価員候補者を推薦する理由

※複数回答

「平成25(2013)年度 評価員候補者の推薦に関する大学の意識調査」より

「推薦している」「過去に推薦していたが今はしていない」計198校からの回答

 評価機構は、これらの要望も踏まえて、今後も評価システムの改善向上に努めるとともに、評価員の研修や負担軽減など効率的かつ効果的な評価のあり方について調査・研究を行い、質の高い認証評価を目指していきたい。
(評価研究部評価研究課係長 江成一敏)