日本高等教育評価機構だより(日本私立大学協会発行『教育学術新聞』連載)

令和元(2019)年9月25日分掲載

学修成果の捉え方
評価充実協議会のパネルディスカッションより

 平成16年度からスタートした認証評価は、平成30年度から第3期がはじまり、日本高等教育評価機構(以下、『機構』という。)では、学修成果と内部質保証を重視した認証評価システムに大きく変更し、昨年度15大学の評価を行った。新システムで実施した評価の初年度ということもあり、その検証という観点から、本年の7月10日に開催した機構の評価充実協議会においては、昨年度の評価に携わった評価員の経験談としてパネルディスカッションを行い様々な示唆を得た。本稿では、今後、評価受審を予定している大学の参考となるよう、主に学修成果に関する内容を中心に紹介したい。

 パネルディスカッションは、「平成30年度第3期の認証評価の評価員を経験して―第2期との比較から―」をテーマとして、木村勝彦氏(長崎国際大学副学長)、向雅彦氏(学校法人西南女学院理事長)、山谷敬三郎氏(北翔大学学長、北翔大学短期大学部学長)の3人をパネリスト、吉田修氏(愛知産業大学経営学部教授・教養教育センター長)をファシリテーターとして行われた。

 冒頭、吉田氏から、昨年度評価に携わった評価員への学修成果に関するアンケートについて紹介があった。「大学が学修成果を明確にし、適切に自己点検・評価を行ったと感じたか」という質問に対して、評価員が大学の自己点検評価書を確認した7月の段階と、実地調査後の10月の段階と2回確認したところ、1回目では「そう思わない」の回答は約半数の45%で、2回目は25%と減少した。「自己点検評価書」の段階では不明確な部分が多く、自己点検評価書に十分記述されておらず、またエビデンスも十分ではなかったが、その後の書面質問や追加資料、また実施調査での面談等を通じて、学修成果の点検・評価の内実が、少しずつ明確になった。

 続いて、3人のパネリストから報告があった。

 まず、木村氏からは、大学全体として、何のために学修成果の可視化や測定を行うのか、という視点からの説明があった。

 3つのポリシーの策定とそれに基づいた教育課程の編成及び実施が高等教育機関としての大学における使命の根幹であることは、全ての大学で認識されている。そこでは大学の内部で学修成果をどう捉えるかということについて、大学全体としての統一的な見解を得る必要がある。学修成果として国家試験の合格率、就職率や資格の取得率は重要な指標であるが、それ以上にその大学でその資格を取るということの特異性、他大学との差別化をどのように捉えるのかが重要である。

 何をどの程度まで身に付ければ学修成果と評価するのかということを、学部・学科の違いを越えて、大学としての統一的な見解や目標を考えることが必要である。

 次に、向氏からは、学修成果に関する具体的な取組み事例について紹介があった。

 教育の質は、学修成果を起点とした3つのポリシーの実践の成果を定量的・定性的にアセスメントし、見出した課題を改善する仕組みを実行していくことで保証することができる。

 同氏の大学では3つの方針に基づいて機関レベル、教育課程レベル、科目レベルの3段階で学修成果を定めている。まず、レベルごとの実施方法について定義し、具体的な評価方法を策定している。ルーブリックを利用し、縦軸にはこの三つのレベルを、横軸には、学生を時系列に入学時、在学時、卒業時と分けた形で具体的な評価方法、指標を示した表を作成し、それぞれの段階で状況を確認している。

 入試時点では、アドミッションポリシーを満たす人材かどうかの判定を行う。次に在学、単位認定、進級時点で、カリキュラムポリシーに則って学修がスムーズに進められているかどうかを評価し、最後に卒業判定時点でディプロマポリシーを満たす人材となったかどうかの判定をしている。

 学修成果の点検・評価へのフィードバックでは、エビデンスをもとにこの三つのレベルで、それぞれの会議体で査定をする。その結果を上部の会議体に報告し、その会議体で改善計画を求めている。

 評価の目的の一つは社会への説明責任を果たすことがあるが、その重要課題が学修成果の発信である。学修成果を可視化して説明しても、それが最終的に学生の成長につながらなければ意味がない。学修成果は提供する側の大学の視点ではなく、それを享受する学生の視点で教育改善を進めることは重要である。

 最後に山谷氏からは、昨年担当した経験をもとに説明があった。

 この学修成果の点検・評価については、どこの大学も実態としてはすでにしっかりと取組んでいる。ただ、それを昨年度の評価で提出された自己点検評価書やエビデンスでは、その内容や実態をしっかりと書き切れていなかった。さらに書面質問で確認しても、不明確なままで実地調査に赴いたというのが現状であった。建学の精神に謳われていることを、さまざまな関連の中でしっかりと捉え、可視化できるような明確なものが見られなかった。

 大学全体との関連を踏まえて学修成果を可視化し、明示できるかについては、大学教職員の共通理解が必要であり、さらに、それらが学生にフィードバックされているかどうかが重要である。学修成果により何が身に付いたということについて、学生自身が理解できているかどうかという確認は必要である。

 今回、第3期の初年度にあたる評価に直接携わった評価員経験者から具体的かつ示唆に富んだ発表があり、参加者アンケート結果でも非常に好評であった。しかし、このことは学修成果の定義がまだしっかりと定着していないという結果でもあり、機構としては、今後も継続して説明や周知などの啓発活動を行っていく必要がある。

 現在、文部科学省の大学分科会が設置する教学マネジメント特別委員会では、学修成果の定義とそれに基づく情報公開について審議しており、年度内には教学マネジメントの指針とともに発表される予定である。人間性や積極性などを含めて教育のすべてを可視化し、測定することは不可能かもしれないが、公共性や教育の費用対効果という観点から、今、大学が十分な教育を行い一定の成果を出していることのアカウンタビリティが求められている。しかし、誰に対する情報公開であるかを明確にしなければ、単なる大学の負担増になりかねない。
(事務局長・評価研究部長 伊藤敏弘)