日本高等教育評価機構だより(日本私立大学協会発行『教育学術新聞』連載)

令和2(2020)年2月26日分掲載

オーストラリアの大学評価について
―平成30年度実施報告書から―

 日本高等教育評価機構(以下「当機構」)は、2018年度に行った調査研究の成果をまとめた報告書「認証評価に関する調査研究 第9号」をこの3月に発行する。本稿では、この報告書の中から、オーストラリアの大学評価に関する調査結果を紹介したい。

「リスクアセスメント」の実態と課題を調査

 中央教育審議会は、2016年に発表した「認証評価制度の充実に向けて(審議のまとめ)」において、評価の効率化を提言した。これを受け、当機構は評価の効率化に関する海外の先進的な取組みを調査し、今後の評価システム改善の参考にすることにした。

 その中で、評価の効率性を高める手法として特に注目したのが、オーストラリアの「リスクアセスメント」(リスクをベースとした評価方法)である。

 オーストラリアでは、毎年のリスクアセスメントと、最長で7年に一度の機関登録審査とを組合わせることで、教育機関の質の維持・向上を目指している。日本には見られないシステムであり、その実態・課題などを探るため、リスクアセスメントを行う評価機関と、その評価を受けた大学を訪問し、インタビューを行った。

TEQSAとASQAの評価姿勢は異なる

 訪問した評価機関は、オーストラリア高等教育質保証・基準機構(Tertiary Education Quality and Standards Agency:TEQSA)とオーストラリア技能質保証機関(Australian Skills Quality Authority:ASQA)で、いずれも連邦政府が2011年に設立した独立行政機関である。

 TEQSAは高等教育機関を対象としており、日本の設置審査にあたる登録審査や、コースアクレディテーション(学位プログラムの適格認定)なども行っている。

 リスクアセスメントでは、全ての登録機関から決まったデータや資料の提出を受け、TEQSAが開発した「リスクアセスメント指標」に沿ってリスクを分析する。リスクの程度は項目ごとに低・中・高で示し、この結果に応じて登録機関に助言や改善勧告などを行う。必要なデータや資料の大半は公表されているものであり、それらをTEQSAが独自に収集するので、大学の準備負担は小さい。

 リスクアセスメントが毎年定型的に行われるのに対し、最大7年に一度の登録審査は、全国統一の「高等教育基準」に基づいて大学ごとに厳格に行われる。ただし、リスクアセスメントの結果が良ければ、高等教育基準は省略版が適用され、負担が軽減される。そして、大学の事情や国の政策に合わせた基準を追加することで、効率的で効果的な審査を行う仕組みだ。

 一方、ASQAの対象は、高校段階も含めた職業教育訓練機関である。国が定める「登録職業教育訓練機関基準」に基づいて、機関を登録審査し、登録機関の提供するコースのアクレディテーションを行う。用いる基準やリスク指標は異なるが、リスクアセスメントの手法はTEQSAとおよそ同じである。

 しかし、両者の基本的な姿勢には違いがあるようだ。TEQSAは教育機関が適切に運営されていることを前提に、提出されたエビデンスの確認が主な調査手段になる。リスクの早期発見・改善と再登録審査の効率化のためにリスクアセスメントを活用している。

 対してASQAは、問題がある教育機関を特定し、コース廃止も含めた厳しい規制措置を行うためにリスクアセスメントを行っているようだった。職業教育訓練機関は、全国におよそ4000と数が多く、教育内容、設置者、組織規模などが非常に多様である。教育の質の維持、学生の保護などのために、きめ細かい監督が必要であろうと推測される。

TEQSAの手法に大学側は好意的

 今回の調査研究では、TEQSAやASQAへの意見を聴取するため、評価を受けた大学を3校訪問した。

 ウーロンゴン大学は1951年設立。シドニーから車で90分ほど南にあるウーロンゴン市に広大なキャンパスを持つ総合大学で、主要な国際大学ランキングでは常に上位に入る。独自の質保証枠組みを開発し、コースレビューなどを積極的に行っている。

 TEQSAのリスクアセスメントでは、毎年リスク程度が低いとされているため、2017年の再登録では、実地調査が免除されるなど、最小限の審査だった。大学は、TEQSAの評価システムを信頼しており、「TEQSAは大学の発展のために必要な組織である」との認識だった。

 スウィンバン工科大学は、1908年設立の技術学校を前身として、1992年に大学になった。職業教育訓練部門もあるため、TEQSAとASQAの両方の評価を受けている。

 TEQSAのリスクアセスメントでは、ここ数年、退学率や臨時雇用教員の比率などでリスクがあるとの結果が出ているが、リスク指標は透明性が高く、指摘は納得できるものであるという。

 一方、ASQAについては、小規模校や高校レベルの教育機関と同様の基準で精緻な評価を受けるのは負担が大きいとのことであった。

 トーレンス大学は、米国ローリエート・インターナショナル・ユニバーシティが運営するオーストラリアでは数少ない私立大学である。学生の約3分の1がオンラインコース履修生で、全国16か所のキャンパスに教職員が分散しているため、学内での情報共有やコミュニケーションを重視した組織運営を行っている。

 2013年に受けたTEQSAの新規登録審査では、未整備点があるとされ、登録期間は5年に短縮された。大学は、再登録審査に向けた改善を促進する意味で、「登録期間中にリスクアセスメントを受けることは大きな意味がある」とした。

 以上のように、異なる3タイプの大学のいずれもがTEQSAのシステムを好意的に評価している。

日本での導入には課題

 調査により、リスクアセスメントを中心とした評価システムがオーストラリアで受入れられていることが明らかになった。

 リスクアセスメントを日本で導入しようとすると、誰がアセスメントを行うのか、また、数値からはわかりにくい定性的な活動状況はどう評価するのかなど、課題が多いが、今後、大学ポートレートなどの情報公開が進めば、検討の余地は広がる。継続的な調査研究が必要である。
(評価研究部評価研究課課長・小林澄子)