日本高等教育評価機構だより(日本私立大学協会発行『教育学術新聞』連載)

令和3(2021)年4月28日分掲載

教育の優れた取組みが多い一方管理運営には課題も
―令和2年度の評価結果から―

 公益財団法人日本高等教育評価機構(以下「評価機構」という。)では、令和2年度の各種認証評価の結果を令和3年3月25日に評価機構ホームページで公表した。本稿では、受審校の優れた取組みや改善事項に関する指摘などから、昨年度の認証評価を振返ってみたい。

認証評価等の実施概要

 平成30年度からの大学等の質的転換や内部質保証の確立の状況を重視した第3期評価システムの3年目となる令和2年度は、42大学、2短期大学の機関別認証評価及び平成30年度の大学機関別認証評価で「保留」となった1大学の再評価を実施した。その結果、認証評価では40大学、2短期大学が「適合」、再評価では「保留」となった要因の改善が確認され、「適合」となった。

 学校教育法の改正が令和2年4月1日から施行され、評価機関に対し、評価基準に適合しているか否かの認定が義務付けられたため、結果的に認証評価の2大学が「不適合」となった。その要因について、共通のものとしては、財政基盤の確立に関する指摘であり、1大学では理事会の機能に関する指摘も複数あった。

 機関別認証評価のほか、令和2年度は、1研究科を対象にファッション・ビジネス系専門職大学院認証評価を行い、「適合」と判定した。

 また、平成29年度の大学機関別認証評価で「保留」となった1大学について、当該大学が認証評価実施の過程において、評価基準の一部に関して事実の隠蔽等重大な社会倫理に反する行為が意図的に行われたことが確認されたため、評価機構の規則に基づき、評価結果を「不適合」とした。

学修支援、教授方法に優れた取組みが顕著

 近年の評価では、基準2の「学生」と基準3の「教育課程」に多くの「優れた点」が挙げられていたが、令和2年度は特に基準2の基準項目2-2「学修支援」及び基準3の基準項目3-2「教育課程及び教授方法」に多くの「優れた点」があった。まず、基準項目2-2の主な「優れた点」としては、「基幹教育センターの教員が初年次の物理・数学の授業に担当教員の補助として参加し、学修困難を抱える学生の支援を連携して行っている点は評価できる」、「学生支援システムを効果的に活用して、学修状況等を常にアドバイザーが把握しており、定期的に学生と面談を重ねることによって、学生一人ひとりの個別的事情に配慮した指導、助言を行い、体系的な学修・生活支援が実現されていることは評価できる」、「学生による学修支援活動団体「Shares」が、「学習支援センター」やアカデミック・アドバイザーと連携して、入学後から就職まで、学生同士による学修支援の仕組みを構築している点は評価できる」などがあり、学修の支援策として、組織的な取組みが挙げられた。

 また、基準項目3-2の主な「優れた点」としては、「ディプロマ・ポリシーと一貫したカリキュラム・ポリシーを形成する上で、演習や実験科目における教育方針としてアクティブ・ラーニングなどを取入れ、実施内容についてFD研修を行うなど、組織的に取組んでいる点は評価できる」、「ディプロマ・ポリシーとカリキュラム・ポリシーの連関を示し、科目群の関係を一覧できる「カリキュラム・マップ」を整備し、シラバスに掲載していることは、学生の理解を高める観点から評価できる」、「AP(大学教育再生加速プログラム)事業を継続的に展開する中で、全ての科目でアクティブ・ラーニングの技法を取入れようとしており、更に必修科目においてPBL型授業を導入するなど、効果的な授業方法の工夫・開発に努めていることは評価できる」、「教育開発・学習支援センターを設置し、教授方法の改善のための「研究授業」を全科目に対して実施するなど、教授方法の改善に組織的に取組んでいる点は評価できる」などがあり、各ポリシーに基づくカリキュラムが展開され、特色ある教育が行われていることが読み取れる。

内部質保証機能が充実

 平成30年度から設定された基準6の「内部質保証」の優れた取組みとしては、「IR機能の充実のため、職員に「IRer(IR専門職資格)」の取得を促し、資格取得させた点は評価できる」、「内部質保証のためのPDCA実施要項を策定し、IR推進委員会のデータを根拠として大学戦略会議、教授会、各委員会のPDCA活動の報告により、データ可視化の環境下で自己点検・評価を行い、PDCAサイクルが有効に機能していることは高く評価できる」、「事業の達成度チェックとして、「事業計画に対する項目評価チェックシート」を活用し、次年度の事業計画に反映させる制度は、評価できる」、「内部質保証の方針を明記する「中長期目標・基本計画」を定め、使命・目的、教育目的等の実現に向けた継続的な改善活動の循環プロセスを構築し、恒常的に改善・改革を推進していることは高く評価できる」などがあり、全学体制のもと、内部質保証のためのIR活動や、内部質保証と事業計画または中期計画と連動した取組みが目立った。

大学の管理運営には課題も

 評価で指摘された「改善を要する点」としては、主に法人及び大学の管理運営に関するものが多く、教育関連の基準の指摘の合計数を上回った。

 基準5の「経営・管理と財務」では、教育情報等の公表への未対応、私立学校法や寄附行為の定めに基づく法人運営がなされていない、財務基盤や収支バランスに問題があるなどが主な指摘であった。また、基準4の「教員・職員」では、平成27年度改正の学校教育法第93条などの学長のガバナンスに関する学長と教授会の関係や法令に基づく規則の整備などが多く指摘されていた。

 令和2年度の評価結果を総括すると、教学や内部質保証に関する多様な取組みを行い、多くの成果を挙げていることが認められる。一方、大学や学校法人の運営に課題が散見され、特に、学長のガバナンスに関する法令改正からすでに6年が経過しているが、指摘は減少しておらず、評価機構として法令への理解や学内規則の整備の必要性などについて大学により一層の周知が必要である。
(評価事業部長 陸 鐘旻)