日本高等教育評価機構だより

令和5(2023)年4月26日分掲載

学生サービスとSD活動に優れた取組み
令和4年度の評価結果から

公益財団法人日本高等教育評価機構(以下「評価機構」という。)では、令和4年度の大学及び短期大学の機関別認証評価の結果を令和5年3月27日に評価機構ホームページで公表した。

本稿では、学生サービスとSD活動に関する受審校の優れた取組みを中心に、令和4年度の認証評価を振返ってみたい。

認証評価の実施概要

令和4年度は、67大学、2短期大学の機関別認証評価を実施した結果、66大学、7短期大学が「適合」となった。1大学では、教学マネジメントの機能に関する学長と教授会の関係性について学校教育法に対応しておらず、また、内部質保証の体制、自己点検・評価の実施方法及びPDCAサイクルの機能性に複数の課題があり、「不適合」となった。

認証評価のほか、令和2年度の認証評価で「不適合」となった1大学の追評価を実施し、「不適合」の要因となった事項について評価した結果、改善されたことが確認できたため、「適合」となった。

新型コロナウイルスの影響により、令和2年度と令和3年度ではすべての評価業務がオンラインでの実施となったが、令和4年度では、社会の情勢などを踏まえて、オンラインでの経験を活用し、一部の会議と実地調査は対面で行うなどのハイブリット型で実施した。評価員及び受審校の関係の方々には諸準備にご尽力をいただき、この紙面をお借りしてあらためて御礼申し上げたい。

多彩な学生サービスに特色あり

評価機構では、学生が成長できるために必要な学修環境、学修支援以外に、学生生活の安定を図るための各種取組みを「基準2.学生」の基準項目「学生サービス」において求めている。

令和4年度の評価では、多彩な学生サービスの方策として、「キャンパス内に医師・看護師が常駐する内科の診療所、臨床心理士・公認心理師が常勤するカウンセリングセンター及び簡易郵便局を設け、学生生活の利便性向上を図っていることは評価できる」、「地方自治体との連携により奨学金を確保し、学生の経済的支援を行っている点は、地域に根差す大学の優れた取組みとして高く評価できる」、「自治体や地域住民、地域企業などの協力により、無料野菜スタンドを通じて学生への生活及び経済支援を充実させていることは評価できる」、「学生食堂では、保護者と教職員で組織する教育後援会の支援により、一人暮らしで朝食をとらず登校しがちな学生のために100円朝食を提供し、学生の健康維持のための健康支援に努めている点は高く評価できる」、「学長会のもとに副学長、学生部長を中心とする学生支援ワーキンググループにより学生支援に対する全学方針を策定した上で、組織の垣根を越えてチームとして学生をサポートする体制を築いている点は評価できる」など、多岐にわたる組織的な支援策が挙げられた。

SD活動が充実

「基準4.教員・職員」の基準項目である「職員の研修」において、職員である教員と事務職員が受審校の運営に必要な能力を身に付け、向上させるための取組み(スタッフ・ディベロップメント(SD))の状況に関する自己点検・評価を求めている。また、平成29年度4月からSDが義務化されたことにより、各受審校が積極的に取組んだ結果、特に平成30年度以降の評価においてSD活動に関する特色ある取組みが顕著となった。

令和4年度に挙げられた優れた取組みとして、「他大学と連携してSD研修会を実施しているほか、相互に職員が出向するなどの人事交流を行い、情報交換を通じて職員のスキルアップを促し、業務改善につながる人材育成をしている点は評価できる」、「外部研修会に参加した職員が報告書を作成し、法人のグループウェア上の情報共有広場に掲載することにより、知識・情報の共有化を図り、全教職員が日常的に資質・能力を向上する仕組みを構築していることについては評価できる」、「教職員の資質・能力向上のための研修体系に基づいた年度計画に沿って、大学運営の質を高めるためSDに組織的に取組んでいることは、きめ細かい優れた取組みとして評価できる」、「職員の資格取得や通信制大学院入学などを奨励しており、諸規程を整備し、財政的な支援も行うことで職員のモチベーションを高めている点は評価できる」、「高い頻度でSD研修会が実施され、コンプライアンス教育、新人・若手職員教育、個人情報保護、コロナ禍対応等、複雑化する日常業務に適宜対応する工夫が行われている点は高く評価できる」など、それぞれの大学が求めている職員の資質等に見合った組織的な取組みが多くあった。

ガバナンスの法令遵守になお課題が残る

様々な優れた取組みがある一方、評価報告書で指摘された「改善を要する点」の中で、特に多かったのは、昨年度に引き続き、学長のガバナンスと法人運営のガバナンスに係わる法令等の遵守状況に関する内容であった。

「基準4.教員・職員」の基準項目である「教学マネジメントの機能性」では、平成27年度に改正された学校教育法第93条などの学長のガバナンスに関する学長の諮問機関としての教授会の役割、副学長の役割、学生の懲戒等に関する手続きの定め方などに指摘が挙がった。

また、学校法人のチェック機能としての監事及び評議員に関し、「基準5.経営・管理と財務」の基準項目である「管理運営の円滑化と相互チェック」において、監事の監査報告書、法人の重要事項に関する評議員会での審議方法、議事録の作成などに関する指摘が多くあった。

令和4年度の評価結果を総括すると、学生サービスやSD活動に多様な取組みを行い、多くの成果が挙げられたことが認められる。

一方、大学や学校法人の運営に課題が残っており、特に、学長のガバナンスや評議員会及び監事の役割などに関する指摘は減少しておらず、評価機構として法令への理解や学内規則の整備の必要性などについて、今後、受審校への周知の方法などを含め、さらなる工夫が必要である。

評価機構では、令和7年度からの第4期評価システムの構築に向けて、文部科学省の「学校教育法第百十条第二項に規定する基準を適用するに際して必要な細目を定める省令」をはじめ、設置基準や私立学校法の改正等を踏まえて、令和4年度から検討を開始し、令和5年度中に評価システムを確定したうえで、令和6年度の初めには説明会などを行う予定となっている。

また、高等教育の諸情勢及び各種答申などの内容を踏まえ、高等教育の質の改善に関する幅広い調査・研究を行い、認証評価制度のみならず高等教育全般の諸動向に関する情報の発信を引き続き続けていきたい。

(評価事業部部長兼評価研究部部長 陸 鐘旻)

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