令和7(2025)年9月24日分掲載
第4期認証評価制度の展望
― 第3期の経験を踏まえて ―
はじめに
2004年度にスタートした大学機関別認証評価制度は、2024年度に制度導入から20年という節目を迎えた。この間、日本の高等教育を取り巻く環境は大きく変化し、18歳人口の減少、大学の多様化、国際化の進展、デジタル技術の導入、そして大学への社会的説明責任が強まるなど、質保証の重要性はかつてないほどに高まっている。
そのような状況の下、今年の2月に「知の総和答申」が出され、4月からは文部科学省において、認証評価の抜本的な見直しが急ピッチで進められている。
日本高等教育評価機構(以下「当機構」)は、大学・短期大学の機関別認証評価を担う評価機関として、制度開始当初から各期の評価基準や手法の見直しを行い、制度の改善と質保証文化の定着に寄与してきた。特に第3期(2018年度~2024年度)は、質保証を重点評価項目として設定するとともに、評価の簡素・効率化や大学とのコミュニケーションを通じての大学改革の推進など、認証評価制度の新たな方向性を示す重要な期間となった。
令和7年度から実施している第4期の評価基準の内容は、内部質保証のためのステークホルダーの関与のほかは法令上最新の状況にアップデートしているのみで第3期とほぼ同様である。
しかしながら、第3期と同じ内容の評価を繰り返すだけでは、継続的な認証評価が大学のさらなる改善や発展につながるかどうか疑問が残る。そこで本稿では、第3期の評価の成果や課題などの検証を行うことによって第4期における方向性について考えてみたい。
1.第3期における評価の特徴と成果
第3期では、内部質保証の充実と評価制度の簡素・効率化を目指し、評価基準や実施方法の見直しが行われた。その特徴は、次の3点に集約される。
(1)重点評価項目としての内部質保証
第3期では、「自律的な質保証体制の確立」が一層強調された。内部質保証を単なる制度対応の枠組みにとどめず、三つのポリシーを起点とした教学マネジメントにおける教育の質保証の中核として定着させることが求められた。大学・短期大学における自己点検・評価の記述においても、方針や体制の整備に加え、質的改善につながるPDCAサイクルの運用が重視されるようになった。
(2)評価の簡素化と記述の実質化
自己点検評価書の記述の簡素化が促される一方で、実質的な記述内容が問われるようになった。過度な説明的記述や定型的な情報の羅列から脱却し、課題認識と改善努力の実態を示す記述が評価の対象となった。この流れは、評価を単なる外形的な認証作業から、機関の自己改善プロセスと連動させる方向へと変化させているといえる。
(3)多様な取組みの尊重
評価基準においては、画一的な基準ではなく、各大学の理念・目的や設置形態、地域的特性等を踏まえた柔軟な評価が行われた。独自基準において地域貢献、国際展開、特色ある教育プログラムなど、多様な取組みが取り上げられるとともに、特記事項を設け、大学の特色を評価結果とともに社会に公表することとした。
2.第3期で明らかになった課題
上記のような進展があった一方、第3期の評価実施を通じて、次のような課題も明らかになった。
(1)内部質保証の運用実態の差
多くの大学で内部質保証体制は形式的には整備されつつあるものの、実質的な運用には大きな差が見られた。中には、機関全体の方針と部局の実態が乖離しているケースや、自己点検・評価が年次行事として固定化し、改善活動につながっていない事例も見受けられる。質保証の定着には、全学的な教学マネジメントと教育現場との双方向的な連携が不可欠である。
(2)学修成果の可視化と活用の遅れ
学修成果に関する把握や評価体制の整備は進んでいるものの、実質的にアセスメント・プランなどを運用し、学生の到達度を教育改善に反映させている例は限定的である。ルーブリックの整備やポートフォリオの導入、卒業時到達目標の明確化など、評価ツールの導入は進んでいるが、それらが教職員や学生にとって十分に機能しているとは言いがたいケースも散見される。プロセスとしての学びの可視化と、それを活かしたカリキュラムや教育研究活動の改善が求められる。
(3)自己点検評価書の質のばらつき
簡素化が形式的に捉えられ、記述量の削減が進められる中で、根拠やデータを欠いた記述が増える傾向が見られた。逆に、依然として大量の説明的記述が続いている機関も存在し、評価者の負担や審査の公平性確保という点でも課題が残る。真に「簡素かつ実質的」な自己点検評価書とは何か、受審大学と評価員が共通理解を持つ必要がある。
3.第4期に向けた評価制度の方向性
第4期において、当機構が重視すべき視点は、次の3点である。
(1)内部質保証の支援と外部評価の補完的機能の強化
今後の認証評価は、第三者からの点検による課題等に対する指摘から、内部の質保証活動を支援・補完する評価への転換が求められる。評価は大学の課題認識と改善行動を促進するだけでなく、大学の強みを見出すものでもあり、評価結果の公表を通じて、社会への説明責任も果たす必要がある。評価基準や判定の透明性を高めると同時に、自己点検・評価の質を高めるよう、ガイドラインや事前相談体制の充実も進めていく必要がある。
(2)学修成果の把握・評価のための教学IRの活用
学修成果の可視化を実現するためには、教学IRの活用が不可欠である。学修成果の評価は、単なるデータ収集ではなく、エビデンスに基づく意思決定、教育改善に結びつけるプロセスである。IR部門と教学部門の連携を進め、学位プログラムごとのディプロマ・ポリシーと学修成果の関係などを含め再度分析し、教育の質の保証と向上のために努めることが求められる。
(3)大学の多様性に対応した柔軟な評価
各大学のミッション、専門分野、地域性、学生構成や規模等の違いに応じた柔軟な評価が必要である。定型的なチェックリスト型評価ではなく、各大学の中期的な計画に基づく戦略的方向性や取組みの独自性を適切に把握し、その目的達成に資する評価が求められる。
おわりに
第4期の認証評価は、20年の制度運用を経て、次なるステージへと進む時期である。制度の成熟とともに、評価機関としての当機構の役割も変化している。
単なる「合否判定機関」ではなく、ピア・レビューの観点から高等教育機関の質向上を支援するパートナーとして、大学との建設的な対話を重ねていくことが一層重要となる。
当機構では、これまでの評価活動の蓄積を踏まえ、制度の信頼性、柔軟性、実効性のバランスを保ちつつ、今後の評価制度の展開に貢献していきたい。
評価を通じて大学の社会的使命の実現に資するとともに、高等教育の質保証文化の深化と発展を目指して、制度の今後を見据えて取組みを進めていく所存である。
(常務理事・事務局長 伊藤敏弘)