日本高等教育評価機構だより

令和8(2026)年1月28日分掲載

APQN年次会議が香港で開催
産学連携とAIをめぐり議論

2025年11月、香港において、アジア・太平洋高等教育質保証ネットワーク(APQN)の年次学術会議・年次総会(以下、APQN会議)が開催された。「質の高い高等教育のための産学連携の推進」をテーマに、講演、全体会議、ガラディナーなどが行われ、世界各国の質保証機関や高等教育機関の関係者400人以上が参加した。日本高等教育評価機構から2人の役職員が参加したので、その概要を報告する。

2025APQN AAC&AGM概要

名称:

2025 Asia-Pacific Quality Network Annual Academic Conference & Annual General Meeting

2025アジア・太平洋高等教育質保証ネットワーク 年次学術会議&年次総会

日程:

2025年11月20日(木)~11月23日(日)

会場:

Nina Hotel Tuen Wan West Hong Kong SAR, China

ニーナホテル ツウェンワンウェスト 香港

主催:

Hong Kong Council for Accreditation of Academic & Vocational Qualifications

香港学術及職業資歴評審局

テーマ:

Embracing Industrial Collaboration for Quality Higher Education

質の高い高等教育のための産学連携の推進

国境を越えて質保証を推進

まず、APQNという組織について確認しておきたい。APQNは「アジア太平洋地域の高等教育の質の促進」と「質の高い地域の境界の打破」を目的に、2003年に設立された非営利・非政府機関である。45の国・地域から190以上の質保証機関や高等教育機関が加盟する、大規模な国際ネットワークであり、当機構は2014年から正会員として活動に参画している。
APQNの対象地域には、ロシア、アフガニスタン、中央アジア諸国、イランを含む。一方で、経済分野では含まれる米国やカナダなどは対象外だが、米国をはじめ、ドイツや英国など、その趣旨に賛同する国の機関もオブザーバーとして加盟している。

香港の質保証機関が主催

開会宣言をするガリーナ・モトワAPQN会長(壇上左から二人目)ら

開会宣言をするガリーナ・モトワAPQN会長(壇上左から二人目)ら

APQN会議は、コロナ禍ではオンライン開催だったが、2022年にシンガポールで対面での開催を再開した。2023年バングラデシュ、2024年ロシアに続き、2025年は香港が開催地に選ばれた。
現地ホストは香港学術及職業資歴評審局(HKCAAVQ)が務めた。HKCAAVQは香港唯一の質保証法定機関であり、学校教育と職業訓練の双方の教育機関の適格認定や、個人への学位・資格認証などを行っている。
会場のニーナホテルは、香港の中心地から地下鉄で15分程度の街、荃湾(ツェンワン)のランドマークである。かつて工業地域だったツェンワンは、現在は新界と呼ばれる一帯を代表するベッドタウンとして変貌を遂げた。高層マンションや近代的なショッピングモールと昔ながらの商店街や市場が隣合わせにあり、そのどこにも人があふれる活気ある街だ。

応用科学大学に見る産学連携

最初の基調講演では、HKCAAVQのエクゼクティブディレクター、アルバート・チョウ氏が登壇し、香港における応用科学大学(University of Applied Science)の政策内容と課題について話した。
応用科学大学とは、実践的・職業的な教育研究に特化した大学形態で、主にヨーロッパ諸国で見られる。香港の応用科学大学政策は、従来の職業教育訓練コースを学士レベルに格上げするもので、2020年から既存大学の課程を再編する形でパイロットプロジェクトが開始され、すでに2大学が認可を受けた。また、香港政府が約20億円の資金を投じて応用科学大学連合を設立し、中国をはじめ世界各国の大学・企業との連携を進めていることが紹介された。
質保証の面では、開設時の教育局による審査に加え、認可3年後のHKCAAVQの継続審査が義務付けられている。これらの審査基準には、産業界との連携体制や、学修成果の把握とフィードバックなどが含まれている。チョウ氏は、「プログラムの進展だけでなく、応用研究への配慮やその後の品質調査でも産学連携が必要であり、最も難しい課題だ」と述べた。
続く全体会議では、パイロットプロジェクトに選ばれた4大学の学長が事例紹介を行った。香港で初の応用科学大学となった香港メトロポリタン大学学長のポール・ラム氏は、産業ニーズに基づくプログラムや充実したインターンシップなどを紹介し、「これまでは学術研究大学か技能労働者教育機関の2種類だったが、今後の応用科学大学の存在意義を確信している」と強調した。
職業教育の価値向上を通じて若者のキャリア選択を広げ、労働力強化につなげようとする政策的意図が伝わる印象的なセッションだった。
産学連携をテーマとしたもうひとつの基調講演では、大学改革支援・学位授与機構機構長の服部泰直氏が登壇し、産学連携における質保証機関の役割や日本の大学の取組みを紹介した。

AI時代の質保証を問い直す

今回の会議では、産学連携と並びAIをめぐる議論が大きな関心を集め、3つの基調講演が行われた。
ニューカッスル大学(豪)のバート・フェルホーフェン氏は、学修の質保証とは、学修者が学修能力を獲得したことを総合的に示す評価計画のプロセスであるとし、学修者がAIを利用する時代では、レポートやテストなど単一の成果物から評価することはもはや不可能で、成果物、学びのプロセスの観察、学修者の内省という3要素による評価が有効だと述べた。
ユネスコ本部のフェンチュン・ミャオ氏は、「教育・研究における生成AI活用指針」などの作成を主導した経験を踏まえ、AIには規制・監視が必要であり、「創造的な活用でなければ、学修者の知性発達の阻害要因になり得る」と警鐘を鳴らした。
アメリカンナショナル大学及びフェアファックス大学(米)のルーカス・カブリー氏は、AI時代に対応した米国のアクレディテーション制度の刷新の必要性などを指摘した。
各講演では活発な意見交換が行われ、AIがもたらす変革や恩恵と負のインパクトとのバランスをとることは、国際的な課題であることが改めて共有された。
以上、代表的なプログラムについて触れたが、このほかにも、ヨーロッパでの産学連携や、質保証機関の国際認証をテーマとした全体会議、各国での研究成果を共有する分科会なども行われた。

国際的知見を評価事業に生かす

APQN会議への参加は、当機構が評価機関として国際通用性を高めるための事業の一環である。
コロナ禍以降、当機構でも国際関係事業はオンライン利用が中心となり、円安や物価高の影響も受けて現地に渡っての活動は難しくなっているが、今回、香港で世界各国の専門家の知見を直接得られた意義は大きい。特に、香港の応用科学大学と日本の専門職大学との類似性は示唆に富み、その制度設計や質保証の仕組みを更に調査する必要性を感じた。もちろん、休憩時間やガラディナーで言葉を交わした方々との出会いも、対面参加ならではの成果だ。
今回得られた貴重なデータや資料は全て当機構で保存・共有している。今後、評価システムの改善などの事業に生かしていきたい。
(評価研究部評価研究課 課長 小林澄子)

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