令和8(2026)年10月14日分掲載
「新たな評価制度」の在り方を考える
評価充実協議会のシンポジウムから
はじめに
日本高等教育評価機構(以下「当機構」)は、認証評価に関する大学相互の共通認識を深め、協力体制を構築するとともに、認証評価制度の充実と教育の質の維持向上への啓発を目的として、毎年度「評価充実協議会」を開催している。令和8年度は、去る7月7日、東京のアルカディア市ヶ谷を会場に、対面とオンラインによるライブ配信を併用して開催した。
プログラムは、当機構の活動状況報告、基調講演、シンポジウムで構成された。このうち活動状況報告と基調講演については、令和8年8月5日発行の本紙において報告されているため、本稿ではシンポジウムの内容を中心に紹介したい。
シンポジウムは「高等教育機関の評価制度の在り方を考える」と題し、文部科学省高等教育局高等教育企画課大学設置・評価室長の鈴木宏幸氏、リクルート進学総研所長・「カレッジマネジメント」編集長の小林浩氏と筆者がシンポジストとして登壇し、当機構の安井利一理事長がモデレーターを務めた。
冒頭、安井理事長から、高等教育機関の評価制度を今後どのように設計し、その成果を社会にどのように伝えていくかが課題として示された。行政、社会・企業、評価機関というそれぞれ異なる三つの立場から、評価を単なる制度上の手続きにとどめず、教育の改善・向上と社会的信頼につなげていくことを中心に議論が進められた。
評価結果を社会にどう伝えるか
前半では、小林氏から「大学の外」の視点で、これからの大学教育と質保証の在り方について問題提起があった。大学進学率が約6割に達し、多様な学生が大学で学ぶ時代となった今、大学には「どのような学生を受け入れ、どのような教育を行い、卒業時にどのような力を身につけた人材として社会に送り出すのか」を明確に示すことが求められている。
一方、現在の認証評価については、大学と評価機関が多くの時間と労力を費やしているにもかかわらず、その成果が高校生や保護者、高校の進路指導担当者、企業などに十分活用されていないとの指摘があった。評価結果は専門的で文章量も多いため、その内容が広く理解されているとは言い難い。
そのため、今後は大学の特色を社会に分かりやすく伝える「ストーリー」が重要になる。建学の精神や教育理念を起点として、どのような学生を受け入れ、どのような教育を行い、どのような人材を社会へ送り出すのかという一連の流れを明確にする必要がある。三つのポリシーについても、大学固有の理念や地域性、学生像、育成人材像と結び付けることが求められる。
また、高校教育における探究型学習の進展や産業・就業構造の変化を踏まえ、大学教育においても「教員が何を教えたか」から「学生が何を経験し、何を身につけ、どのように成長したか」へと視点を転換する必要がある。卒業後も自ら学び続け、能力を更新していく「学び方を学ぶ力」を育成するとともに、学生が身につけた学修成果を社会に分かりやすく示していくことが重要であるとの意見が示された。
新たな評価制度の構築に向けた五つの論点
続いて筆者から、高等教育機関の新たな評価制度の検討が進められていることを踏まえ、認証評価機関の立場から報告を行った。
まず、第3期認証評価を振り返り、内部質保証の重視や大学の個性・特色への配慮が浸透し、各大学における内部質保証の高度化や自主的な改革・改善に一定の成果を上げていることを述べた。
その上で、新制度の具体化に向けた論点として、①大学の多様性と評価機関の自主性・独自性、②新たな評価制度の実現可能性、③第4期認証評価との接続、④段階別評価と資源配分との関係、⑤認証評価の目的と新制度が目指す姿、の五つを提示した。
特に、近年は複数の学問分野を横断する学部・学科も増えており、一律の枠組みだけではディプロマポリシーを起点とした教育成果を十分に捉えることが難しくなっている。共通の基準によって一定の質を保証する一方、建学の精神、教育理念、地域性など、それぞれの大学・学部が持つ個性を尊重することも不可欠であり、「共通性」と「多様性」のバランスを確保することが重要である。
また、学部単位での評価を進める場合には、評価対象の増加に伴う評価員の確保・育成、評価に要する費用、大学・評価機関双方の業務負担など、制度の実現可能性についても十分な検討が必要となる。制度の理念だけではなく、実際に評価を担う現場において持続的に運用できる仕組みが重要であると述べた。
今後の評価制度を巡る議論
その後、安井理事長の進行のもと、今後の評価制度の在り方について意見交換と会場からの質疑応答が行われた。鈴木氏は、大学が教育内容や成果を社会に分かりやすく発信し、社会との対話を進めることの重要性を強調した。小林氏は、18歳人口が減少する厳しい環境の中、評価に多大な労力を要する一方、その成果が社会で十分に活用されていないことを指摘し、大学教育の価値を「入口」の偏差値から「出口」の学修成果へと転換するとともに、「質保証」から「質向上」へと進める必要性を述べた。
筆者からは、学部単位の評価に伴う評価員の確保や業務負担、段階別評価などの実務上の課題を挙げるとともに、評価は大学の序列化を図るものではなく、自主的・自律的な改善を支援するものであるべきと述べた。
議論を通じ、大学の特色や教育成果を社会に示し、社会との信頼関係を構築することの重要性が共有された。
おわりに
当機構としては、大学の強みや優れた取組を見いだし、その改善・向上を支援する評価機関として更に発展させていきたい。そのためには、大学の自主性と多様性を尊重するとともに、大学・評価員双方の負担にも配慮し、現場の実態に即した実効性のある評価制度を構築することが重要である。
今回の議論を今後の評価制度の改善につなげるとともに、試行的な評価等を通じて新たな評価の可能性を追求し、高等教育機関の自律的な質保証と教育の質向上に資する評価機関を更に目指していきたい。
(常務理事・事務局長 伊藤敏弘)
※鈴木氏の役職は当時のものです。
